ケトン食療法における抗けいれん作用の機序解明

ケトン食療法は高脂肪、低炭水化物食により血中ケトン体を増加させ、擬似絶食状態を引き起こす食事療法であり、近年、薬剤耐性の難治性てんかん患者にも効果があることが報告されてからその有用性が注目されつつある。しかしながら、ケトン食療法の抗けいれん作用の機序は未解明である。ケトン食療法は、(1) 血中ケトン体増加を引き起こす。しかし、ケトン体自身は神経活動に直接影響を及ぼさない、(2) 低血糖を引き起こし、その程度はケトン食療法の抗けいれん作用と相関する、(3) 脳内ATPの増加を引き起こすことが報告されている。ケトン食療法における抗けいれん作用の機序を解明するために、ラット急性海馬スライス標において、CA3錐体細胞より全細胞パッチクランプ記録を行った。海馬CA3錐体細胞において細胞内ATP濃度が十分もしくは高濃度存在する時は、細胞外グルコース濃度低下によりpannexin-1 チャネルが開口しATPが細胞外に放出され、アデノシンに加水分解された後アデノシンA1受容体を活性化し、CA3錐体細胞に過分極を引き起こすことが示された。この細胞外グルコース濃度低下により引き起こされる海馬CA3錐体細胞のオートクリン調節はケトン食療法における抗けいれん作用の機序の一つと考えられた。