沿革 History

慈恵医大薬理学講座の歴史―教授挨拶にかえて

講座担当教授 籾山俊彦

 

1.   沿革

本学における薬理学の歴史は、明治14年、成医会講習所開設とともに寺島大浩らによって調剤学の講義が行われたことに遡る。大正10年に東京慈恵会医科大学として大学に昇格し、大正13年4月に薬理学講座が開設され、当初は医化学講座の永山武美教授が薬理学講座を兼担した。昭和3年、石川雄三郎が初代薬理学講座担当教授に就任した。昭和14年に石川教授が逝去し、医化学の永山武美教授が再び薬理学講座を兼担したが、昭和18年、中尾健が薬理学講座担当教授に就任した。

 

昭和44年4月、第二薬理学講座が設けられ、当時薬理学教室定員外教授であった松葉三千夫が第二薬理学教室初代教授に就任した。これによって本学薬理学講座は二講座制となり、第一薬理学講座(中尾健 教授)および第二薬理学講座(松葉三千夫 教授)の名称で呼ぶこととなった。

 

中尾健教授は昭和49年3月定年退職し、第二薬理学教室松葉三千夫が第一薬理学教室に転じた。

 

昭和50年4月、福原武彦が第二薬理学教室教授として着任した。

 

松葉三千夫教授は昭和61年3月定年退職し、後任として同年4月川村将弘が第一薬理学講座教授に就任した。

 

平成5年12月、かねてから病気療養中であった福原武彦教授が逝去し、川村将弘教授が第二薬理学講座を兼担することとなった。平成7年9月、大学機構改革に基づき、講座の名称を薬理学講座第一および第二に変更することとなった。

 

平成19年2つの講座は統合されて大講座制に運営体制を改め、引き続き川村将弘教授が講座担当教授として講座の管理、運営にあたった。

 

平成20年3月に川村教授が定年退任し、同年9月1日付で、自然科学研究機構・生理学研究所から籾山俊彦が薬理学講座担当教授に就任した。

 

平成28年6月現在の薬理学講座スタッフは、籾山教授以下、定員外教授の木村直史、講師の大野裕治(大学直属)、西晴久、石川太郎、川村将仁、助教の志牟田美佐、中村行宏、鈴木江津子、研究補助員の利田美幸、沖田康子、高木美和である。また、大学院生(博士課程)の西條琢真が在籍し、籾山と一緒に実験を行なっている。

 

2.   研究の変遷

薬理学講座開設当初から下垂体の機能、インスリン分泌等の内分泌生理学・薬理学に関する研究が行なわれた。この内分泌薬理学研究は、副腎皮質細胞の形態と機能との相関、培養副腎皮質細胞におけるコレステロールの動態といった形で近年まで引き継がれていた。旧第二薬理学講座では呼吸中枢および循環中枢の生理学および薬理学に関する研究が行なわれ、この流れは現在も木村直史のグループによって受け継がれている。

籾山の専攻分野は中枢神経系の薬理学および生理学、特に大脳基底核シナプス伝達機構およびその修飾機構の研究である。これまでに電気生理学的手法を用いて、中枢シナプス伝達におけるシナプス前ドーパミン受容体の機能に関する研究等で成果をあげ、慈恵医大着任後も自ら実験を続けている。また籾山は最近、電気生理学的解析に加えて、新たなバイオセンサー素材を用いて中枢におけるカテコーラミンの生理的遊離機構の解析にも取り組んでいる。東京大学およびUniversity College Londonにて研究活動を行なった石川太郎が平成21年4月に助教として着任し(翌年講師に昇任)、小脳および橋核に関する独自のプロジェクトを開始した。薬理学講座のさらなる活性化が期待される。

 

現在の薬理学講座の研究概要は以下の通りである。

 1)大脳基底核、前脳基底核、小脳および橋におけるシナプス伝達機構、その修飾機構およびそれらの生後発達変化の解析 

 2)大脳基底核シナプスの再生機構の解析

 3)呼吸のリズム形成およびパターン形成機序に関する研究

 4)呼吸の反射性調節に関する研究

 5)薬物、食餌による抗けいれん作用の機序解析

 6)プリン受容体機能の解析

 

3.   教育の変遷

薬理学講座創設当初より、薬理学講座スタッフが薬理学総論、各論および薬理学実習を担当してきたが、近年のカリキュラム改革により、科目が臓器別に再編成され(いわゆるレヴェルシステム)、薬理学という授業科目名はなくなっている。

現在、籾山がユニット「生体と薬物」(薬理学総論に相当)を担当し、薬物・受容体相互作用を中心とした講義を行なっている。尚本ユニットでは、薬物治療学研究室の景山茂教授(旧第二薬理学講座出身)が薬物動態の講義を受け持っている。また、ユニット「病態と薬物」(薬理学各論に相当)では籾山をはじめとして、木村、大野、石川、および薬理学教室出身で、現在は感染制御部長の堀誠治教授が講義を分担している。現在の慈恵医大のカリキュラムでは、いわゆる従来の薬理学各論に充当する時間数は少ないが、各レヴェルシステムにおける講義の中で、薬理学各論に相当する内容を薬理学講座の教員が補っている(たとえば神経系のユニットで籾山が鎮痛薬の講義を担当)。薬理学実習では生体位ラットの血圧等に対する薬物の作用を解析するin vivo実習および摘出腸管標本に対する薬物の作用を解析するin vitroを、教員全員で行なっている。現在全国の医系大学では古典的薬理学の実験手技を持つスタッフが少なく、医学生にとって不可欠であるにもかかわらず伝統的な薬理学実習を遂行しにくい傾向にあるが、本学では確実に行なわれている。実習には、前当講座准教授である、東京有明医療大学の高野和夫教授も参加している。また、籾山は医学英語演習を担当し、神経科学領域における古典的な原著、最近の重要な原著等を精読している。さらに医学科3年生の1-2月にかけて研究室配属の学生を受け入れ、学生が実際の研究遂行過程を体験する手助けをしている。

近年の医学部・医科大学の6年一貫制カリキュラムでは、以前の教養課程2年、学部4年という長閑なカリキュラムに比して履修すべき科目が前倒しされ、早い学年で履修されている。薬理学に関して言えば、従来(多くの教職員の学生時代)は学部1年(現在の医学科3年)後期―学部2年前期に講義、学部2年後期に実習というのが全国の大学の平均的な課程であったが、現在本学では、医学科2年の9月―11月に生体と薬物(薬理学総論)、3年の6-7月に病態と薬物(薬理学各論)を履修している。さらには、薬理学実習は生理学実習とともに機能系実習として、2年の11月に行なわれている。いずれも以前より1年以上早い履修となっている。そのこと自体の是非はともかく、たとえば各論の講義を受ける前に実習を行なわなければならない点等、学生、教員双方にとって難儀な点もあり、今後カリキュラムのさらなる見直しが必要と考える。