副腎皮質細胞のATP受容体の機能の研究
副腎は、正直あまり目立った臓器とは言えないかも知れません。医学の世界を離れると、心臓や脳など生命維持に直結する器官や、血液検査の数値が気になる肝臓などと比べて、ますますその存在は人々の意識から外れてしまう様に思えます。脳や心臓がその役割を誰もが知る「スター・プレーヤー」であるならば、言わば副腎は「バイ・プレーヤー」でしょうか。とはいえ、健康な生活はもとより、生命の維持には副腎も不可欠な臓器であることは紛れもない事実です。また、一見バイプレーヤーでも、異なる胚葉由来臓器の複合体である副腎は、実は非常に機能に富んだ、まさしく「役者な」臓器なのです。
当研究室では、副腎の皮質を構成する細胞の一つである「副腎皮質束状層細胞」における副腎皮質ホルモン(コルチゾール)産生について研究しています。副腎の機能に関して、先人の英知と努力により、現在まで多くのことが明らかとなって来ました。しかしながら未だ不明の事象が数多く残っていています。そのひとつとして、細胞の外に存在しているATP(細胞内ではエネルギー産生物質)などの「プリン」の受容体である、プリン受容体(purinergic receptors)が連関したコルチゾール産生修飾作用があります。つまりプリン受容体の刺激や抑制が、副腎皮質刺激ホルモンの作用を強めたり弱めたりする作用です。当研究室ではこの修飾作用のメカニズムに焦点を絞って研究しています。これについて研究することで、副腎の機能を、それまでなかった方法で制御することが出来る可能性となり、まったく新しいアプローチの仕方で副腎の病気の治療や不具合調整が可能になるかも知れません。
どんな分野の研究でも、得られた成果によって新たな真理をがもたらされると同時に、またそこから新たな謎が湧出する、といった繰り返しになることも少なくないでしょう。しかも、私たちの行う研究は基礎研究であるが故、すぐに結果が医学に応用できるとは言えません。しかしこの研究は、遠い先を見据えた「薬」の開発だけに限らず、副腎の機能不全が関与する疾病の治療法確立にも一役買っている可能性は大いにあるでしょう。